ラーメンでつながる人の心 (「江ぐち」店主 井上 修さん)

 ラーメンでもない、中華そばでもない。人はその食べ物を「江ぐち」という...。

 三鷹南口の有名なラーメン屋は?この質問に「江ぐち」と即答された方、きっと三鷹歴が長いはず。半世紀以上に渡ってこの地で愛され続けている、この店の厨房に立つのは井上修さん。小さな気配りを忘れない、真摯な人柄が印象的な66歳。気配りは、暖簾をくぐったときから始まる。

 お客さんと目が合ってからでないと「いらっしゃい」の一言はかけない。忙しい最中であれば、顔も見ずに挨拶しても、おそらく誰も不平を言わないだろうに。

 黙々と作り続けてきた味は、お店に入った40年前からまったく変わらないそうだ。今となっては昔の味と比較はできないけれど、年配の常連さんがモノも言わずにもくもくと食べている姿が何よりの証拠だろう。注文を受けてから、指揮者がタクトを振るように箸で麺を泳がせる。目の前に並べた丼に向けて、リズミカルに調味料を振りかけていく。一連の手さばき、ムダがない。

 サービスし過ぎの大盛メンマ&チャーシュー。少し硬めの麺と今は少数派のさっぱり醤油スープの組み合わせ。どんぶりには今も昔も変わらない、三鷹の優しさがあふれている。もう一つは「安さ」。今時、500円払っておつりがもらえるラーメン屋さん、探すのは難しいだろう。「お客さんのほとんどは常連さん。家族で来てくれたり、孫を連れてきてくれたり、ホントありがたいよね」。好みから何から、顔を見ただけで浮かぶ。

 ごちそうさまの後には、必ず満面の笑顔で「ありがとね」。そんなラーメンを通した温かいやりとりは、お客さん同士にも広がる。「席、詰めますよ」「連れがこないから、お先にどうぞ」。声に出す人もあれば、ごく自然に相手を思いやる人もいる。常連も一見さんも関係ない。分けへだてなく輪に招き入れてくれる。

 「時代が移り、町並みが変わっても、人の心は変わらない」。井上さんのこの街のミカタだ。


江ぐち
三鷹市下連雀3-27-10
Tel:0422-43-6381
営業時間:11:00〜14:30,16:30〜20:30
定休日:月曜日