桜桃忌

 6月19日は、初夏というより真夏といいたくなるような暑い一日でした。太宰治の誕生日でもあり、死亡が確認された日でもある桜桃忌には、毎年全国からたくさんのファンが三鷹を訪れます。2時から墓前で住職さんの読経です。想像以上の人の数。お供え用の花や包みを持つ人も少なくありません。浴衣姿の粋な女性の姿も。

 入口にはみたか観光ガイド協会の方たちが、参列者に太宰ゆかりの場所を案内するため集まっていました。読経後太宰に関する講話が続きます。ホ−ルの入口には記帳簿があり、青森、新潟、名古屋といった住所も数多く、参列者の年齢層も非常に幅広い。思えば太宰ファンにとっての三鷹は、ある種の「聖地」なのかもしれません。

 立ち話をしていると、制服姿の女の子が記念写真を撮ってほしいとやってきました。ピ−スサイン、インスタントカメラで写してもらっている姿はとてもうれしそう。今度は制服姿の男の子たち数人が、入水場所をみて帰りたいと聞いてきました。彼らのあまりの若さに興味を覚えました。
 
 時間がないというので、思い切って個人的ににわかガイド役を引き受け、寺脇の秘密の近道を通り連雀通りへ彼らを連れていきました。女子高生2人は太宰ファンでよく作品を知っています。けど一番好きなところは「ルックス」なのだそうです。
 一方男子は国語の先生が太宰ファンで、行って来いといわれたとのこと。夏には金木町にも行くかもという本格派? いや実はそれほど自主的な行動ではなさそう。途中、伊勢元商店や郵便局の話など、聞きかじりの知識総動員で説明を試みました。

 暑さにめげず玉川上水までたどり着きました。彼等は感慨深そうに玉鹿石やレリ−フを眺め、記念撮影を提案すると喜んで写真に納まってくれました。駅近くの永塚葬儀社の看板にも女子はしっかり反応。本当に感心です。こうやっていつまでも太宰が語り継がれるとうれしいなと思います。

 桜桃忌は常連の方も多く、ここ数年はずっと夏のような陽気、と教えてくれた方もいました。例年の行事で内外にもかなり有名なのに、何の宣伝もなく商店街も普段どおり。でもそれが桜桃忌らしいところなのでしょう。

 なぜか南に向かう人がぞろぞろと続く日、玉鹿石のまわりで撮影したり、上水を覗き込んでる人を何人もみかける日、それは桜桃忌、その当日かもしれません。(み)